名古屋地方裁判所 昭和40年(行ウ)45号 判決 1969年3月28日
愛知県一宮市牛野通一丁目四八番地の一
原告
国立米次郎
同所
原告
国立春子
右両名訴訟代理人弁護士
三宅厚三
同県同市明治通二丁目四四番地
被告
一宮税務署長
右指定代理人
東隆一
同
飛沢隆志
同
加藤利一
同
木沢慎司
同
越知崇好
同
井原光雄
同
浜島正雄
右当事者間の昭和四〇年(行ウ)第四五号昭和三七年分所得税の更正及び加算税の賦課の決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
一、被告が昭和三九年一一月二四日付でなした、原告米次郎の昭和三七年度分総所得金額を六五八万七、六三五円、同税額を二二八万九、一八〇円とした更正処分中所得額三九三万〇、一三五円、所得税額一〇七万八、六八五円を超える部分並びに過少申告加算税六万〇、五〇〇円の賦課決定を取消す。
二、被告が昭和三九年一一月二四日付でなした、原告春子の昭和三七年度分所得税額を一一万七、七三二円とした更正処分中所得税額九万七、三一九円を超える部分並びに過少申告加算税一、〇〇〇円の賦課決定を取消す。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、当事者双方が求めた裁判
(原告)
主文同旨の判決
(被告)
「一、原告等の請求はいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決。
第二、当事者双方の主張
(原告)
(請求原因)
一、原告米次郎と原告春子は夫婦で生計を一にし、共に資産所得を有するものである。
二、原告米次郎はその所有にかかる別紙目録記載の物件(以下本件土地と略称する)を、昭和三八年一月一二日、訴外名古屋スーパーカプ株式会社(以下スーパーカブという)に代金五七〇万円で売渡す契約(以下本件売買契約という)を締結し、即日手附金五〇万円同月末残代金五二〇万円をそれぞれ受領した。
三、右のとおり本件土地の売買契約による譲渡所得は昭和三八年中の所得であるから原告米次郎は昭和三八年度分所得税申告に際しその旨申告した。
四、然るに被告は本件売買契約は昭和三七年中になされたものと認定し、その譲渡所得を昭和三七年中の所得として申告すべきところその申告をしなかつたとして昭和三九年一一月二四日付をもつて次のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定をした。即ち、
原告米次郎の昭和三七年度総所得金額は三九三万〇、一三五円から六五八万七、六三五円に、税額は一〇七万八、六八五円から二二八万九、一八〇円に増額され別に過少申告加算税六万〇、五〇〇円が賦課され、
原告春子の同年度分の税額は九万七、三一九円より一一万七、七三二円に増額され別に過少申告加算税一、〇〇〇円が課せられたのである。
五、原告両名は昭和三九年一二月七日前記更正決定に対し被告に再調査の請求をしたが棄却されたので、原告等は更に昭和四〇年三月二〇日訴外名古屋国税局長に対し審査の請求をしたが昭和四〇年八月三一日付でこれは棄却された。
六、しかし本件売買契約は昭和三八年一月一二日に締結されたものであり、従つて右契約による譲渡所得を昭和三七年度分の所得に加算する右更正処分及び過少申告加算税の賦課決定は誤つているのでその取消を求める。
(被告)
(一) (請求原因事実に対する認否)
一、第一項の事実は認める。
二、第二項の事実は認める(但し売買契約成立の日時、手附金授受の日時は争う)。
三、第三項の事実は争う(但し原告等が昭和三八年度分所得税申告書を提出した事実は認める)。
四、第四項の事実は認める。
五、第五項の事実は認める。
(二) (主張)
被告が本件売買契約を昭和三七年中に成立したと認定した経緯ならびに根拠は次のとおりである。
一、原告米次郎は昭和三九年三月一五日、同人の被告に対する昭和三八年度分所得税確定申告において本件土地の譲渡時期を昭和三八年一月一〇日、価額を三八〇万円として申告したので被告において調査したところ次の事実が判明した。
1 本件土地の買主であるスーパーカブの代表者訴外石河賢二(以下石河という)および同経理担当者に面接調査したところ、本件土地はスーパーカブの一宮支店用地としてスーパーカブが原告米次郎から購入したもので価額は五七〇万円で売買契約は昭和三七年一二月二九日に成立し、契約成立と同時にスーパーカブは東海銀行東片端支店の小切手(注、昭和三七年一二月三〇日付、甲第一二号証)をもつて手附金五〇万円を原告米次郎に支払つたものである。そこで被告は右事実を裏付けるためスーパーカブの帳薄を調査したところ次の如く記帳されていた。
仮払金勘定(一宮建設費用)口座(但し本件土地関係分のみ)
<省略>
土地勘定口座(右に同じ)
<省略>
2 右記帳によればスーパーカブは本件土地の売買契約成立の日である昭和三七年一二月二九日に支払つた手附金五〇万円を仮払金勘定として計上し、昭和三八年一月三一日に現金で、本件土地の売買代金五七〇万円から右手附金五〇万円を引いた残代金五二〇万円を原告米次郎に支払つたが、原告米次郎より税務対策として売買代金の圧縮記帳を依頼されていたので、昭和三八年一月三一日の残代金支払の際、仮払金勘定に計上した手附金五〇万円を土地勘定へ振替計上すると共に残代金五二〇万円のうち三三〇万円については直接土地勘定に計上し、残金一九〇万円については、土地勘定に計上せず、仮払金勘定に、一宮支店建設工事費名目で計上した。ところがスーパーカブはその決算にあたり、右工事費名目の一九〇万円の仮装経理に困惑し決算時たる昭和三八年八月三一日に右一九〇万円を土地勘定に振替え仮装経理を修正したものである。
3 原告米次郎は再調査請求に際し本件土地の価額が五七〇万円であることは認めたが譲渡時期は昭和三八年一月一二日であると訂正したので被告は再度スーパーカブに赴き譲渡時期を再確認した。その結果、スーパーカブの関係書類綴りから覚書(甲第一〇号証)、誓約書(甲第一一号証)と題する各書面を発見したので右書面についてその事実を調査したところ、右はいづれも本件土地の売買に際し原告米次郎とスーパーカブとの間の前記税務対策の約束をスーパーカブが破つて、前述の如く本件土地の代価が五七〇万円であることを帳薄上明らかにしたため、その責任を原告米次郎から追求されその結果原告米次郎の依頼によりやむなくスーパーカブにおいて作成したもので、その内容はいずれも事実に反するものである。
4 さらに原告米次郎の審査請求に基き名古屋国税局の担当協議官が本件土地の譲渡時期を石河および本件土地の譲渡時、スーパーカブに勤務し石河の命で右土地の売買を担当した訴外若杉泰夫(以下若杉という)につき調査したところ、本件土地の売買契約は昭和三七年一二月二九日に、原告米次郎方において関係者である石河、若杉訴外森逸郎(以下森という)、同谷岡寿江乃(以下谷岡という)、同水谷良之助(以下水谷という)および原告米次郎らが各立会のうえ、代価五七〇万円で原告米次郎とスーパーカブとの間に契約が成立し、契約書も作成したが、売買代金の支払が完了した際に、原告米次郎の申出により契約書を焼却し、同時に税務対策として別個の契約書(甲第九号証)を作成したことが判明した。
(被告の主張に対する原告の主張)
一、原告米次郎が本件土地を譲渡した経緯は左の通りである。
1 原告米次郎は本件土地を売却したいと考え昭和三七年夏頃、一宮市の不動産業者訴外山田三之丞にその売却斡旋方を依頼した。所謂売りに出したのである。
2 他方、スーパーカブは一宮営業所開設のため、一宮市内に適当な土地の物色を始め、社員訴外寺西和彦を通じて同年一二月初頃、一宮市の土建業者森(寺西の親戚で以前からスーパーカブと取引関係があつた者)に対し土地買入斡旋方を依頼した。そこで森は一宮市の不動産業者谷岡に事情を告げて協力方を申入れた。
3 谷岡は不動産業者間の情報により本件土地が売りに出ていることを知つていたので原告米次郎には無断で森を通じてスーパーカブに本件土地購入をすすめたのである。その結果、石河は同年一二月二五日頃、森、谷岡の案内で本件土地を実地に見聞し、買受の決意をしてその斡旋方を右両名に依頼した。
4 不動産業者である谷岡は、石河が本件土地購入の希望を述べると確実に売買契約を成立させるために手附金を要求した。石河は手附として谷岡に支払うためスーパーカブ振出、東海銀行東片端支店宛、同年一二月三〇日付小切手一通(甲第一二号証以下本件小切手という)を用意したが、年末年始に当つたので昭和三八年一月四日これを森に交付した。そこで森はその旨を谷岡に連絡したところ、谷岡は不動産取引の慣習として小切手では困る、現金で貫いたいと申出た。よつて森は本件小切手を現金化することとし、スーパーカブに連絡の上その取引先である尾西市三条字籠屋訴外永井増市に現金化を依頼し、右永井は直ちに右小切手を取立に廻し現金五〇万円を昭和三八年一月六日、森に交付した。
5 原告米次郎は森、谷岡およびスーパーカブ間で本件土地買受けに関し右の如き動きがあることを全然知らなかつた。
6 谷岡は原告米次郎に面識がなかつたので同年一月九日、原告米次郎方で本件土地買受の申込をした際、一宮不動産取引業組合長水谷を同道した。そして原告としてはこの日に、はじめて本件土地の売買交渉を始めたのである。翌一〇日、森、谷岡、水谷が原告米次郎方へ来て契約条件につき交渉した結果両者の意見は合致し至急契約書を作成し正式に契約することを約した。
次いで翌一一日森、谷岡、水谷はスーパーカブ営業部員若杉と共に原告米次郎方へ来て最終的打合せをなし翌一二日に社長石河も同席して正式契約し契約書も作成することになつた。なお森は同月一〇日、若杉が打合せのため森方を訪ねた際、前記小切手を現金化した五〇万円を同人に交付しておいた。
7 一月一二日、石河は若杉、森、谷岡、水谷と共に原告米次郎方を訪ね本件土地を五七〇万円で買受ける契約をなし即時手附金五〇万円を現金で原告米次郎に支払い契約書を作成し、同月三一日残金五二〇万円を支払つた(但し、契約書は代金三八〇万円と記載し日付も昭和三八年一月一〇日とした)。
二、右のとおり本件土地の売買契約は昭和三八年一月一二日に成立し代金は同日および同月末日に受領している。従つて本件土地譲渡による所得は昭和三八年中の所得である。しかるに被告は本件小切手が前述の如く仲介人等によつて現金化され一旦スーパーカブに返還された後改めて原告米次郎に支払われた事実および不動産取引における実情(代金は必らず現金もしくは銀行保証小切手の授受をもつてする)等を無視している。よつて本件契約が昭和三七年一二月二九日に成立したことを前提とする本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定は当然原告等の申告の限度で取消さるべきである。
第三、証拠関係
(原告)
甲第一ないし第一六号証、甲第一七号証の一、二を提出し、証人森逸郎、同谷岡寿江乃、同永井増市、同若杉泰夫、同石河賢二の各証言及び原告米次郎本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立は知らない。
(被告)
乙第一ないし第四号証、乙第五号証の一、二、乙第六号証の一、二を提出し、証人石河賢二、同若杉泰夫の各証言を援用し、甲第一ないし第三号証、甲第一五号証、甲第一七号証の一、二の成立は認めるが、その余の甲号各証の成立は知らない。
理由
一、請求原因第一、第四、第五項の事実については当事者間に争いがない。
二、そこで本件の争点である原告米次郎が本件土地を訴外スーパーカブに売渡す契約を締結した日時について検討する。
成立に争いのない甲第一七号証の二、証人永井増市、同森逸郎の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一二号証、証人石河賢二の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第五号証の一、乙第六号証の一、証人森逸郎、同谷岡寿江乃、同永井増市、同若杉泰夫、同石河賢二並びに原告米次郎本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。
即ち訴外スーパーカブは同社の一宮営業所開設のため一宮市内に適当な土地を必要としたので、昭和三七年一一月下旬頃同市内で土建業を営む訴外森に適当な土地の物色及び買入れの斡旋方を依頼した。そこで訴外森は同市内の不動産業者訴外谷岡に協力方を申入れ、右谷岡及び同じく不動産業者の訴外水谷の斡旋で原告米次郎の所有する本件土地を訴外スーパーカブに売渡す話をすすめ、その結果同年一二月末頃原告米次郎及び訴外スーパーカブ間で本件土地の売買につきその代金を五七〇万円とし訴外スーパーカブが原告米次郎に手附金として金五〇万円を支払う旨一応の取り決めがなされた。そのため訴外スーパーカブの代表者石河は同年一二月二九日に額面五〇万円、支払人東海銀行東片端支店、振出日付同月三〇日とする甲第一二号証の小切手一通(乙第五号証の一の振替伝票二欄に記された225は本小切手番号と同一)を振出し、社員の若杉にこれを手渡し右手附金として原告米次郎に手交するよう委託した。そこで若杉は右小切手を原告米次郎に手渡すよう更に訴外森に委託したが、同人は前記谷岡から右小切手を現金化する必要があるといわれたので自己が当時銀行取引を停止されていたこともあつて、昭和三八年一月四日、予てから取引関係のある訴外永井に右小切手金の取立を依頼した。右永井は同月五日右小切手を東海銀行三条支店に呈示し、同支店より小切手と引換えに現金五〇万円を受取り、同月八、九日頃右五〇万円を森に引渡した。
そこで森がスーパーカブに小切手の現金化を連絡したので、石河、若杉は同月一一日頃、森方に立ち寄り右五〇万円を受取つて森共々原告方を訪れ、仲介人の谷岡、水谷両名も立会の上、石河から原告米次郎に右手附金五〇万円を手渡し、残代金五二〇万円の支払日を同月三一日とし、その支払と同時に売買に因る本件土地の所有権移転登記手続をすることと定めた。
以上の事実が認められ、証人森逸郎、同谷岡寿江乃、同若杉泰夫、同石河賢二の各証言及び原告米次郎本人尋問の結果並びに乙第一ないし第四号証の記載中には右認定に反する部分があるけれども、これは前掲証拠(但し右認定に反する部分を除く)に照したやすく措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、原告米次郎と訴外スーパーカブ間に本件土地の売買契約が締結された日時は昭和三八年一月一一日頃であると言わねばならない。
しからば原告米次郎と訴外スーパーカブ間の本件土地の売買契約が昭和三七年度中に成立したものと認定し、その譲渡所得を昭和三七年度の所得として申告すべきところその申告をしなかつたとして、被告が原告らに対し昭和三九年一一月二四日付でなした本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定はいずれも違法である。
よつて被告のなした本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定は、原告らの請求の限度で取消を免れないので、原告らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西川力一 裁判官 片山欽司 裁判官 豊永格)
目録
一宮市川田町五丁目二一番の二
宅地 三一四・〇四平方メートル(九五坪)